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2012年1月7日土曜日

信頼する力~キャプテン佑二の交代、エース俊輔を外す、という決断

序章

イングランド戦の二日前、俺は一人、岡田武史監督の部屋に呼ばれていた。
一番はじめに監督の部屋に呼ばれたのは、オシムさんから岡田監督になって
二回目の合宿の時だった。

「俊(中村俊輔)と佑二(中澤佑二)と三人でこのチームを引っ張っていって
くれ」

岡田さんの期待の大きさ、責任の重さを感じてグッときたのを覚えている。
スイス合宿は当初、微妙なムードだった。俺はまったく気にしていなかった
けど、やはり、みんなは韓国戦の敗戦を気にしていた。
チームとして何も出来なかったので、本当にこれまでのやり方でいいのかと、
少し疑心暗鬼になっていた。チーム崩壊は、こうした小さな歪みから進行して
いく。だからなんとか、みんなが自信を回復して、同じ方向を見るように持って
いく必要があった。そんな時、俺は岡田監督に呼ばれたのだ。

監督はまず、日本の戦い方について説明してくれた。

「ワールドカップで先に1点を取られて、2点取り返すというのは今の日本には
難しい。失点しないようにするには、中盤を厚くして守備から入る。
そのために、阿部(阿部勇樹)か稲本(稲本潤一)をDFの前に置くシステムを
試してみる」

それを聞いた時、そう来たか、と思った。
ここにきてフォーメーションを変えるとは・・。

これまでの日本の戦い方は、前から高い位置でプレスを掛けて、ボールを奪って
速く攻めるというものだった。しかし、岡田監督はあえて理想を捨て、
現実的に勝てるフォーメーションを選択した。

「そうですね。一回やってみましょう」俺はそう言った。

それはチームの現状や監督の話を聞いて、納得できたからだった。
また、ドイツでワールドカップを一度経験しているということが、
すごく大きかった。

ドイツ大会の時、グループリーグ最終戦で日本はブラジルに1-4とボコボコに
やられた。あの試合を目の前で見ていて、ワールドカップで勝つのは本当に
難しい。ワールドカップで強豪国に勝つためには半端なことをしても絶対に
勝てない、そう思った。だから岡田監督の言う通り、勝つためにやれることは
どんなことでも試してみようと思うことができた。もし、ドイツ大会を経験して
いなければ、たぶん「今までのやり方でいきましょう」と言っていたと思う。

だけど、監督の衝撃的な発言はそれだけでは終わらなかった。

「そのために、俊輔を外す」

言葉が出なかった。ここでエースの俊を外すのか・・・。

さらに岡田監督は、それまでレギュラーだったGKの正剛さん(楢崎正剛)を
永嗣(川島永嗣)に代え、右サイドバックはウッチー(内田篤人)ではなく、
今ちゃん(今野泰幸)のままで行くと言った。
そしてゲームキャプテンを祐二からハセ(長谷部誠)にすると、告げた。

本当に驚いたし、これは「すごい決断だな」と思った。

特にそれまでチームの中心でやっていた俊を外す決断をする時、岡田監督は
相当悩んだと思う。
このチームが始まる前には、俺と俊と佑二の三人に「頼むぞ」って言っていた
んだし、なんだかんだ言っても俊は攻撃の中心だった。
でも、それだけの切り替えをしないと、ワールドカップでは勝てないんだという
判断をしたんだと思う。

「なんとしてもワールドカップで勝ちたい」

そのためには、ここまでやらないとダメなんだ、という覚悟が感じられた。
監督がそういう姿勢を見せた以上、選手の俺たちはやるしかない。
フォーメーションを変えて、メンバーを変える。本当にやれるのかという不安も
あったし、リスクも大きいけど、俺は岡田監督の「覚悟」に応えたい。
その時、そう、思った。


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